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今月の法話 2021/04/30

宗務所

5月の法話 「家郷(かきょう)に向かうが如し」

5月の法話 「家郷(かきょう)に向かうが如し」

日中も暖かく過ごしやすい気候になってまいりました。5月といえば、ゴールデンウィーク(大型連休)が思い浮かぶのではないでしょうか。石川県七尾市では例年5月3日から5日まで青柏祭(せいはくさい)が開催されます。近年ではユネスコ無形文化遺産に登録され、来場者は3日間で10万人以上、3基の巨大な山車(でか山)やたくさんの露天商も並び、とても賑やかな祭礼であります。でか山は高さ12メートル、重さ10トンあり、車輪直径は2メートルにもなります。民家より大きなでか山が電信柱や民家をかすめながら町中を廻る光景は非常に迫力があります。私の曾祖父母が七尾市に居住していたこともあり、私が小学生の頃はゴールデンウィークに入ると、毎年のように青柏祭へ足を運び、楽しい時間を過ごした思い出があります。そんな私にとっても思い出深い青柏祭でありますが、残念なことに昨年に続き今年も、新型コロナウイルス感染拡大防止のため中止となりました。一刻も早く新型コロナウイルスが収束し再び、でか山の迫力ある姿や、町中が沢山の人で賑わう青柏祭へと戻ってくれることを待ち望んでおります。
コロナ禍により、私たちの日々の行動も制限せざるを得ない状況が続いております。コロナ禍以前の普段の休日ともあれば、家から出て、買い物や食事、映画、旅行、と楽しい休日を過ごしていた方もおられたのではないでしょうか。そして、楽しかった休日が終わり、翌朝を迎えると疲れが残っていた、そんな経験がある方もいらっしゃるかと思います。

江戸時代に慧印禅師(えいんぜんじ)という禅僧がおられました。ある人が慧印禅師に、「休む」とはどういうことなのかを尋ねました。すると慧印禅師は、

「家郷に向かうが如し」
(休むとは自分の家に帰ること、故郷に帰ることである。)

とお答えになりました。

ここでの「家郷に帰る」とは、本来の自分に帰ることであり、自分を見つめ直すということであります。慧印禅師の教える「休む」とは、外に出歩くことや、家でごろごろと怠けることでもないのです。休日を楽しく過ごすことに一生懸命になるのも悪くはありませんが、せわしなく過ぎていく1日の中で、ほんの数分でも座って心を落ち着かせ、自分を見つめ直す時間を設けてみてもよろしいのではないでしょうか。座るのは、椅子や胡坐、正座、もちろん坐禅のように足を組んでも構いません。大事なのは姿勢と呼吸を整え、座って心を落ち着かせることであります。日々生活を送る中で、誰にでも悩みや不安、迷いが生じます。自分は何に悩み、不安になっているのか。それは何が原因なのか。そういった今の自分を見つめ直していくことで、抱えている問題を解決する一助となることもあるのではないでしょうか。
外出自粛を余儀なくされたコロナ禍の今、この状況を好機に捉え、「家郷に向かうが如し」、本来の「休む」ことの意味を理解し、自分を見つめ直す時間を設けてみてはいかがでしょうか。