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今月の法話 2023/01/16

宗務所

サッカーワールドカップと利行(りぎょう)

新年明けましておめでとうございます。
 令和5年が皆様にとって素敵な1年となりますようご祈念申し上げます。
 さて、昨年の出来事を振り返ったときに、いちばん記憶が新しいところでは、昨年11月中旬から約1ヵ月間開催されていたサッカーワールドカップでの日本代表の躍進が挙げられるのではないでしょうか。
 今回のワールドカップでは日本代表は強豪国が連なるグループリーグに入り、大会優勝経験のあるドイツやスペインを破りグループリーグを1位で通過し、決勝トーナメントへ進むことができました。決勝トーナメント1回戦ではPK戦で敗れはしましたが、ベスト16という素晴らしい成績で大会を終えました。日本代表の活躍によって日本中が歓喜し、国民が皆で喜びを分かち合えたというのも非常に素晴らしく感じました。
日本代表の雄姿は国内外に大きく取り上げられておりましたが、試合以外のところでも話題になっていたことがありました。それは、日本代表が利用した後のロッカールームの美しさです。
 ロッカールームは選手が着替えたりミーティングしたりと試合前後に滞在する場所でありますが、チームによっては食物の食べ残し、ペットボトルや紙くずなどのゴミをそのまま放置して、ロッカールームがゴミで散乱した状態で会場を去るチームもあるようです。
しかし、日本代表の利用したロッカールームは、試合に勝っても負けても、最後にロッカールームを明け渡すときには、ハンガーやティッシュケースなどの備品は元の場所に置かれ、床やテーブルにゴミ1つ落ちていない綺麗に整理整頓された状態で会場をあとにします。そして、折り鶴とともに日本語とアラビア語で「ありがとう」という感謝のメッセージも置かれておりました。
 このことが海外メディアにも取り上げられ、日本代表の美しいロッカールームの写真と共に「日本の素晴らしい行い」や「日本のマナーは素晴らしい!」と紹介され、称賛を集めておりました。
 使う前より使った後を綺麗にしようとする姿勢というのは、日本代表選手団の思いやりや心遣いの表れの行為と言えるのではないでしょうか。

 曹洞宗では、我々が日常生活で実践すべき行いが4つ示されており、「布施」(ふせ)「愛語」(あいご)「利行」(りぎょう)「同事」(どうじ)の四つを四摂法(ししょうぼう)と言います。
 その中の3つ目に「利行」とあります。これは、自分だけが良い思いする事ばかりを考えるのではなく、ただ相手の為を思い、見返りを求めずに思いやりをもって行動することであります。
曹洞宗の開祖 道元禅師の言葉に次のような言葉があります。

「ただひとへに利行に催さるるなり」 

「ただひとへに」とは「ただ純粋に」の意。「催す」というのは、様々に考え巡らすよりもまず先に自然と心や体が動く状態を表します。
道元禅師は「あれこれと考えて打算的に行動するのではなく、相手を思い、その人の為に心や体が自然と動くような人でありなさい」とお伝えになられているのです。

 ロッカールームを綺麗に整理整頓する日本代表選手団の行いはまさに「利行」の教えそのものではないでしょうか。我々も見習うべき心構えであります。
いじめ・差別・虐待といろんな問題を抱える昨今でありますが、私たち一人一人がこの「利行」の教えを実践して、思いやりの心でもって行動し生活出来れば、今よりももっと住みやすい社会になっていくのではないでしょうか。「利行」を実践し、心豊かに暮らしていきたいものであります。